JAZZはカッコいい。反論はないでしょう。ロックファンだってヒプホプファンだって、自分の好きなバンドがジャズ要素を加えたら喜ぶ。 ここまでで( ゚Д゚)ハァ?と思ったひとはここから先読む意味はあまりありません。あと、既にJAZZファンなひともお呼びじゃない。いや、読むだけは読んで欲しいけど多分怒るでしょう。
さて、ならばそんなJAZZはポピュラーか、音楽ファンなら誰でもレコ棚に入っているか、というとそんなことはないと思われる。その理由はやはり、どれから手をつけたらいいのかわからないということが一番でしょうが、ここではそれをもう一歩踏み込んで考えてみたいと思う。
(1):ファンがマニアックで、いちアーティストをというよりも、ジャンルそのもののファンであることが多い。
ロックならば、まず気に入った曲からバンドを調べ、ファンになるというケースが多いと思う。なので、ラジオで聴いた曲でもタイトルかバンド名がわかれば、そのファンサイト等で情報を得ることは容易だ。
しかしJAZZの場合で同じ事は難しい。まず曲名を調べることが困難ということがあるのだけど、それをクリアして、そのプレーヤーの情報のあるページを見つけたとする。さて、それは求める情報だろうか。多くの場合、そのプレーヤーのバイオグラフィー、ディスコグラフィーは手にはいるだろう。だけど、その意味がわかるかというと話は別で、マイルスに師事し、とか、名盤なんちゃらに参加し、とか書かれても、既にジャズのとっかかりをつかんでいるひとや、楽器をやっていて音楽の用語から音やリズムを連想できるひとには有用でも、はじめの一歩のひとにはどうしようもないのではなかろうか。
また、ツェッペリンなんて興味ないよ、というロックファンはいても、マイルスに興味ないジャズファンはいないでしょう(これは(3)の現役感の問題にも関係する)。これが問題で、この音楽は全部が良いって言われたら困ってしまう。何から聴いて良いのかわからない一番の理由じゃないかと思う。
(2):曲よりも演奏を楽しむタイプの音楽なので、違いがわかりにくい。
(1)の壁を乗り越えて、とにかく名盤とされるアルバムを購入したとする。同じひとが勧める他のアルバムも聴いてみる。さて、次に進む道は見えるだろうか?両方とも名盤とされていて、実際聞こえはカッコ良かったりもしても、次に買うべきアルバムがわからないのではないだろうか。
これがロックで、チリペッパーズとOASISを聴いたなら違いは明らか。チリペッパーズがより気に入ったのならRATMなり、ビースティーズなり、OASISが気に入ったのならBLURなど、いろいろ考えられる。この差は大きい。
(3):ジャズと言われて多くのひとがイメージするのは50-60年代のもので、ジャンルとしての現役感に乏しい。
これは僕の感覚でしかなく、間違いかもしれないけど、ジャズは50-60年代時点で理論的にもテクニック的にもかなり高度なところに達している。あそこから発展させるのは難しく、その後は素人がデタラメに弾いたようすら聞こえてしまうフリージャズ、テクニックやテクノロジーが進みすぎて機械のようになってしまったフュージョンと、マニアな方向に進むしかなかった。故に一番なじみやすい、ポピュラリティーのあるものは現役よりも昔に多い。(ノラ・ジョーンズぐらいポップなら話は違うのだろうけど、あれは今ここで書いているJAZZとはちょっと違うでしょう。)
幸いというかなんというか、ロックには原始的であるが故の柔軟性があったけれど、そうでなければプログレが主流になったかもしれない。そう考えるとわかりやすいのではないかと思う。
(4)パーマネントなユニットという概念が乏しい。というかほぼない。
ロックファンはバンド単位でものを考える。ソロの場合、プロデューサーとの組み合わせ等でイメージは固まる。
対してジャズはそのあたりがデタラメだ。殆どの場合個人名でのアルバムになるが、その実情は、それほど多くないビッグネームのシャッフル。ヒプホプファンには理解しやすいと思うけど、ロックでいえば「今度のフリーのアルバムはギターがトム・モレロで、ドラムがニール・パート、ボーカルはトム・ヨーク。あ、ギターはスラッシュが弾く曲もあるんだよ」ってなイメージ。あと、「そもそもフリーのアルバムって」みたいな違和感。
さて次に、これを踏まえてロックファンに勧めるジャズの一枚目の条件を考える。
(1):ジャズファンにそのプレーヤーの代表作とされている。
さもないと、全貌が把握しづらい。代表作とされているからには、ある方面において頂点なわけだから、それがダメなら一度そのプレーヤーは保留すればいい。
(2):テーマのはっきりした有名曲が入っている。
”autumn leaves”(枯葉)が典型。テーマがなんだかわかると、どこが即興だかわかるし、そういう曲は他の録音があったりするので、比較することで楽しくプレーヤーのタイプを把握できる。
(3)有名人が参加している。
前述の通り、例えばMiles Davisのアルバムといっても、脇を固めているメンツはアルバムによって様々だ。ならばできるだけ有名人の演奏を楽しめるものを選んだ方がお得だ。
(4)管楽器が重なるものは控える。
(3)と矛盾するようだけど、アルトサックスとテナーサックスを聞き分けるのは多分そう簡単なことじゃない。初めはなんならトランペットとすら区別できないかもしれない。そうなると誰がどの楽器でどんな演奏をするのかわからなくて、次に繋がらない。
(5)多少のえぐみのあるものを。
即興ゴリゴリだけで通されてもわけがわからなくて困ると思うけど、逆にあっさりすっきり綺麗に終わられても、所謂「ジャズっぽさ」が足りなく感じるかもしれないので。
前置きが長くなったけど、以上を踏まえて勧める1枚が今回のアルバム、『THE
AMAZING BUD POWELL Vol.1』。
まず、”A night at tunisia”が入っている。これはDexter GordonとかArt Blakeyとか名盤とされるなかにも多くの録音があるスタンダード。しかも割合に素直な演奏で、例えばArt
Blakeyの録音ははじめなんだかわからなかったりするぐらいアレンジされているのだけど、そういうことのない、いかにもJAZZな演奏を楽しめる。こっちからArt
Blakeyに行くと、どう崩しているのかがわかってナイス。
また、3テイクも入っていてちょっと困っちゃう”UN POCO LOCO”だけど、テーマもはっきりしていて憶えやすい。ロックファンにも勧めやすい。ヒプホプファンはネタにしやすい(ひとつの例もないけど)。
次に、Bud Powellということで基本ピアノトリオなのだけど、このドラマーがMax Roach。僕の知るなかで一番好きなJAZZドラマーです。原始的で、聴いてて身体が動くような、語弊があるかも知れないけど、ロックなドラムを聴かせてくれます。
それだけでなく、管の入る4曲ではテナーでSonny Rollonsが参加。これは美味しい。
ペットのFats Navarroもそこかしこで演奏が聴ける名プレーヤーで、激しいバトルが聴ける(管重なってんじゃんね)。
で、再生するときにプログラムでテイク違いの重複を除ける。これで完璧。30分ぐらいになるので、5,6回ぐらい聴けるでしょう。そうすれば自分の好みも見えてくるはず。知ったかJAZZの世界にようこそ。
ちなみに、端っから自分の好みはピアノトリオだとわかっている場合は同じBudでも『The Scene Change』をオススメ。1曲目にかます超名曲”Cleopatra's Dream”があまりに美しい。
ここからはオマケ。当分JAZZについて書くこともないだろうから、こいつのレコメンは信じられるかもと思ってくれた方に向けて、ちょう個人的JAZZのマスト盤を10枚紹介させていただく。一応、上にあるほどオススメ度が高いということにしておきます。
『Study
In Brown』Clifford Brown and Max Roach
お薬に溺れてへろへろだった帝王マイルスさんが、そのあまりに生気溢れるプレーにショックを受けてクリーンになることを決意したという逸話の残るブラウニー。
演奏は美味しいフレーズ満載で、スタンダード”Take the A train”(A列車で行こう)も収録。
Rollins級の有名人がもうひとりでも参加していたらこれを勧めたかった。
『Booker
Little』Booker Little
トランペット連発で。これも結構キャッチーだけど、ストレートで少しゴージャスな印象もある『Study In Brown』と比べるとハングリーな感じ。他の管が入っていない単管ものなので、より生々しいものをお求めの方はこちらからの方がいいかもしれません。ジャケもこっちの方がいいかな。
『Blue Train』John
Coltrane
コルトレーンっていう名前はジャズ知らないひとでも聞いたことぐらいはあるビッグネーム。外すわけにはいかないというのが第一の推挙理由。
僕みたいな毛の生えた素人には、後期どんどんわけがわからなくなるフリージャズマンコルトレーンよりも、この時期の方がよっぽど「ジャズっぽくて」いい。バラードスタンダード”I'm
old fashioned”が素晴らしく、バラードだけを集めた『ballade』よりも濃ゆい曲の中にすっと差し込まれるから活きていると思う。
ex the yellow monkey吉井さんもオススメしてました。
『Ray Bryant Trio』Ray Bryant
メンバーも合わせて、名前だけでいうと恐ろしく地味ですが、マイナー調の日本人が好きそうな曲多し。演奏よりも曲を楽しめる数少ないアルバム。この地味加減が知ったかのときにはまたいいのではないかと思ったりもする。
知名度の点でこの位置ですが、Bud
Powellレベルの知名度があったなら第一に推したかった名盤。名前に拘らないならかなりオススメ。ピアノトリオです。
『Speak
Like a child』Herbie Hancock
数少ない当時からの現役。ピアノですが、管もふんだんにフィーチャーされ、速い曲も目立つ、イメージ的にはかなり「ジャズっぽい」アルバム。
ど定番はこの前の『Maiden
voyage』でしょうけど、僕はこの恥ずかしげもなく本人のいちゃいちゃをフィーチャーしたジャケが大好きなので。いや、『Maiden voyage』のジャケもいいんだけど。
ジャズはジャケを重要視するってのが定説らしいよ。
『Saxophone
Colossus』Sonny Rollins
通称サキコロ。アルバム名がカタカナ4文字で略されている辺りにこのアルバムの重要度が伺える。オケコンとかセブシュマとか言わないでしょう。
個人的には名曲とされている1曲目のまぬー加減がロックファンの求める「ジャズっぽさ」には遠いような気がするのだけど、サキコロを聴かずにRollinsを判断するのは難しいので、あえてコレを勧める。それは音楽的な意味だけでなくて、JAZZ界におけるこのアルバムの評価の圧倒的な高さからも。
『The
Bends』だけ聴いてRADIOHEADは合わないと思っても、そこかしこでオケコンのレコ評読んだら揺らぐでしょう?はまるにしても見限るにしても、これを聴く必要があると、そんな感じ。It's
like that.
もちろん良いアルバムで、単管故にRollinsのプレーがはっきりわかるし、ドラムがMax Roachだから普通にオススメですが、『Sonny
Rollins Vol.2』あたりの方が「ジャズっぽい」かなあ、なんて思います。メンツも派手だし。
『Portrait in Jazz』Bill Evans Trio
ピアノトリオのど定番。ちょっと綺麗すぎる(=えぐさがない)ので、ロックファンがくいつくような「ジャズっぽさ」に欠けるかもしれないけど、スタンダードも何曲か収録されており、曲を憶えるという意味で便利。
『Cool Struttin'』Sonny Clark
実は個人的には特別好きってわけではないのですが頻出なので。5枚6枚と手に入れていくうちに「もうええっちゅうねん」というぐらい名前を聞くことになり、最後には「お前には負けたよ」と聴く羽目になります。その意味でサキコロと似たような推薦理由です。
日本で特に人気のある、ど定番のようです。ロックでいうとMr.BIGか。確か本多孝好の『missing』にも出てきました。ジャケットも大人気。
Sonny Clarkならピアノトリオものの『Sonny
Clark Trio』の方が演奏もジャケも好きなんですけどね。
『genious
of modern music』Thelonious Monk
Monkは数少ない、ピアノ弾きでなくてもオリジナリティを感じられるピアニスト。言い方を変えると変。メロディーラインがどうにもこうにも素直じゃなく、それがはまるとメチャクチャはまる。
6曲目の”in walked
Bud”あたりが顕著かと思うのだけど、メインテーマがノリノリで、入り込んだところで普通そうはいかないだろうという終わり方をする。とってつけたかのようにすら感じる。ああ、しかし癖になるのですよ。
このアルバムの美味しいところとしてMilt Jacksonのヴィブラホンのソロが堪能できるということが挙げられます。凄く良い音ですが、変な楽器といえば変な楽器なので、それだけのアルバムを買うのは抵抗があると思います。なので、こういうかたちで接することができるとお得でしょう。
なおクラムボン郁子さんはMonkを聴いてプロピアニストを志したとのことですので、クラムボン好きは聴いてみるのもいいのでは。ほとんどかすりもしないけど。
『Sarah
Vaughan』Sarah Vaughan AND Clliford Brown
最後に反則気味にボーカルものを。
大好きなブラウニーを堪能できるということもあるけど、歌が上手いってことの意味をしみじみと感じさせてくれるサシィのボーカルに。1曲目に入っている多分誰でも知ってる超名曲”Lullaby
of birdland”(バードランドの子守歌)でいきなり鳥肌が立ちまくる。
なお、これはUA好きに是非。サントリーのCMで同じく”Lullaby
of birdland”を歌っていたので、比べるとおもしろい。
帝王マイルスさんがいないではないかと思う方もおられるでしょう。アレはとっかかりをつかんだひとがより深くを望んだときに聴けばいいと思い、あえてここでは割愛しました。
いわばヘンドリックスでありツェッペリン。OASISやWEEZERあたりからならまだしも、アジカンあたりを聴いてロックってカッコいいかもなんて思った人にそんなもん勧めたら引くでしょ?ヒプホプカッコ良くない?ってちょっと思ったぐらいのひとに『illmatic』勧めたら引くでしょ?そんな感じ。It's
like that.
村上春樹あたりを読むと、ちょっちゅうJAZZ名盤の名前を出してくる。そんなときに「知らん」と流すよりは、「ふふん」と鼻を鳴らした方がカッコ良いのではないかなあと思っていたので書いてみました。
うだうだとひとに語るのではなく、あくまで自分の中で楽しむキャパシティーを広げるという感覚で。語られちゃうと、やっぱりJAZZって面倒くさいって思われちゃうような気がします。スノッブにならず、適当に軽くしゃべってあげると、JAZZも喜ぶのではないかな。僕自身、こんなバカテクどもの演奏を云々できるほどはまってはいませんし。やっぱり聞こえが第一ということで。
ちなみに、わかると思いますけど、ここで書いたJAZZは50-60年代のモダンジャズ、ハードバップ限定です。他は好き嫌いじゃなくて、単に触れていないだけ。
付録として、名盤に多くその名を見られる有名プレーヤーをその楽器別に適当に並べてみます。参考になればなにより。
トランペット:Miles
Davis, Clifford Brown, Booker Little
テナーサックス:Sonny Rollins, John Coltrane(ソプラノもあり), Dexter Gordon
ピアノ:Bud Powell, Thelonious Monk, Herbie Hancock, Sonny Clark, Bill Evans
ベース:Paul Chambers(異常な名盤参加率), Scott La Faro
ドラム:Max Roach, Art Blakey, "Philly" Joe Jones
(KOM:05/02/13)